遺産分割協議の取り消し・解除


遺産分割協議は一般に、亡くなられた方(被相続人)の遺産の分割について、相続権利を持つ複数の相続人(法定相続人)で協議します。全員が合意した上で協議を成立させるのですが、これを取り消したり解除する手続きがあります。取り消しとは、協議としては有効ですが法律的に取り消すことができる場合に、その権利を有する者が意思表示をすることで、協議のはじめまで遡って(遡及的)無効とする行為です。解除とは、法律的に相応の理由がある場合に(法定)、また相続人全員の合意がある場合に(合意)、遡及的無効とする行為です。これらは法律に定められた範囲で可能ですが、相続人に予期せぬ不利益を生じる場合もありますので、意思表示する場合に注意すべき点があります

取り消しについて詳しく知る必要がある

取り消しについては、民法上認められる事由がある場合に行うことができます。未成年者が相続人の中にいて法定代理人がいない場合や、遺産分割協議において詐欺や強迫などの行為があった場合です。相続人に意思能力がない場合、協議の内容が公序良俗に違反する、単独で確信的にうそをつく(心裡留保)、共謀して確信的にうそをつく(通謀虚偽)、協議内容の重要な部分での認識間違い(要素の錯誤)などの場合も、取り消しまた無効となります。またこれは協議の前提に関係しますが、相続人以外の者を加えて成立した場合や、相続権利を持つ者が一部でも参加しない形で成立した場合もその対象となります

解除については、認められない場合がありますので注意が必要です。合意した内容にしたがった債務を履行しない者が出る場合、これを理由に法定解除はできないと考えられています。ある相続人が遺産を相続する代わりに、別の相続人に金銭を支払う合意をしたものの、遺産分割協議成立後に実行しない場合などです。そのため、こうした不履行が生じないよう協議内容に留意する必要があります。履行を合意より先にあるいは同時に行うような条項を設定したり、不履行の際には違約金支払や担保を提出するよう設定することもあります。合意解除においては、全員の合意で再協議、再分割する形になりますが、その場合に税務署から、これは再分割でなく分割後の贈与であると指摘され贈与税が生じる可能性があります。事前に専門家に相談するなど、注意が必要です。

遺産部分の分割を成立させる

なお、協議において遺産と考えられていたものが、成立後に一部でもそうでないものが含まれていたことが判明する事態があります。亡くなられた方の銀行口座の預金であるが、後に他人の現金を預かり口座に入れていたことが分かった場合などです。この場合、遺産でない部分の分割は無効となります。残る遺産部分を分割する意義がある場合は、例えば非遺産のあったことにより不利益を受けるある相続人に対して、別の相続人より金銭などで補償を行う形が考えられます。しかし、非遺産の部分が遺産全体の多くを占めていて、遺産部分の分割を成立させることができない場合は、相続人の意思表示により遺産分割協議全体の解除が認められる場合があります

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